ソラニン 【solanine】
ナス科植物に含まれるアルカロイド配糖体。
ジャガイモの新芽に多く含まれる。
苦味があり有毒で、腹痛・めまいなどの中毒症状を起こす。
浅野いにお『ソラニン』(小学館、2005年)
人生を生きていると節目節目で読み返したり、繰り返し観たりする映画などがあったりします。
僕の場合は浅野いにおのソラニンです。
もともとは全2巻だったのですが、2017年に新装版として新たに描き下ろしが1話追加されたものが出版されています。
あらすじ
Wikipedia からパチッてきた
社会人2年目の井上芽衣子は、将来に希望を感じられずにいた。社会や大人に対し不平不満がありつつ、しかしどうすればいいのかわからないまま、ついに勢いで会社を辞めてしまう。
芽衣子の同棲相手であり恋人の種田成男は、大学時代のバンド仲間である加藤、ビリーと定期的に会い、デザイン事務所のアルバイトの合間を縫ってバンド活動を細々と続けていた。喧嘩し、互いに励まし合いながら、先の見えない生活を続けていく芽衣子と種田。やがて、自身の音楽の才能は平凡と言い張り、逃げの姿勢である種田に対し芽衣子は苛立ちを隠せなくなり「バンドをやってほしい」と自分の思いをぶつける。その芽衣子の一言から種田はアルバイトを辞め、再びバンド活動に熱を入れることを決めた。そして加藤、ビリーらに声をかけ、自身の新曲である「ソラニン」をレコーディングする。
そのデモCDを送ったレコード会社のうち1社から反応があり、種田、芽衣子、ビリーの3人は会社を訪れ冴木という人物に会う。話の内容は、これからアーティスト活動で売りに出す新人グラビアアイドルのバックバンドの依頼だった。
冴木を前に黙っている種田の気持ちを代弁するかのように、芽衣子はその話を断った。以降デモCDの反応はなく、夏が過ぎ去り秋が訪れようとしていた頃、種田は芽衣子に対し突然別れ話を持ち出す。その場は和解したものの、種田は散歩に行くと言ったきり帰って来なかった。種田から連絡があったのは5日後で、彼は以前辞めたデザイン事務所でもう一度働き始めた事、そしてこれまでの思いを芽衣子に伝える。「これからは2人で幸せになろう」と、互いの思いを再確認した帰り道、種田は交通事故で他界してしまう。Wikipedia ソラニン (漫画)
それから2か月、芽衣子は心にぽっかりと穴が空いてしまったようであった。そんな中、種田の父親が芽衣子の元を訪れる。自分を責め続けている芽衣子に対し、種田の父は「彼を忘れないでやって欲しい」という事、そして「彼が居た事を証明し続けるのが、あなたの役割なのかもしれない」と言い残す。その言葉を聞き、芽衣子は種田のギターを手に取る。ビリーたちとともにバンドを再開させた芽衣子はギターの練習を重ね、ライブハウスのステージに立ち、芽衣子のボーカルで種田の残した曲「ソラニン」を歌うのだった。
長すぎやねん
全部パチッてきたので長すぎなのですが、要するに大学を卒業してから定職につかずにプラプラしているヒモ男を、同棲している浅はかな女がけしかけてバンドをやらせた結果、ヒモ男は自暴自棄になり死んでしまったので、代わりに浅はかな女がヒモ男のギターと曲を使ってライブをやるというハートフルストーリーです。
ソラニンとともに歳を経ていく
はじめて読んだとき
僕がソラニンを一番最初に読んだのは2008年ごろなのですが、その時はちょうど僕が東京の大学への進学のために一生懸命勉強していたころなので、頑張って勉強して東京に行くことができればこういう感じで彼女ができてライブができて楽しい人生が待っている(そして最後には死ぬ)という根拠不明の期待感を抱きました。
学生時代前半
なんか違うやん
晴れて東京の大学に合格し、夢のキャンパスライフがはじまって僕はすぐさま軽音楽サークルに入りました。しかし、サークルのチョイスを絶妙に間違えてしまったのか、僕が入ったのはメタルサークルで、Aメジャーコードを延々とかき鳴らすどころかドロップチューニングされたギターの6弦を高速で刻み続けることとなります。
恥ずかしい青年だったので、メタルサークル特有のロン毛になっても僕はソラニンのようなダラダラとした恋愛に憧れを抱き続けていました。
ヤバいサブカル女と出会う
浅野いにお作品を一生懸命読んだ僕の全身から発される人生前向きに生きてなさそうオーラを嗅ぎつけたのか、あるヤバいサブカル女 友絵ちゃんと出会います。
友絵ちゃんはカメラサークルに入ってトイカメラを常時持ち歩いているヤバいタイプのサブカル女でした。僕は時折友絵ちゃんに誘われて、ヤバいタイプのサブカルイベントに参加したりしていました。誘い文句が
「ふじこくん、トレパネーションに興味ある?」
だったりと、今思えば巧妙に作り上げられたイカレサブカル女でした。ちなみにトレパネーションは頭蓋骨に穴を空ける行為をいいます。
僕が友絵ちゃんに浅野いにおのソラニンが好きだということを伝えると
「ああ、浅野いにおねポップカルチャーの」
という謎目線のメッセージが返ってきたりと、作り上げられたキャラクターをブレさせない素敵な女性でした。
ポップカルチャーという新たな目線
友絵ちゃんの発した言葉から、浅野いにおはポップカルチャーであるという新たな知見を得ることができました。
ここまで長々とヤバいサブカル女について記述してきましたが、今回の記事の内容には一切関係がありません。
友絵ちゃんとはその後も色々あったのですが、僕が友絵ちゃんに付き合う意志がないことを伝えておきながら手マンをしたことから関係性にヒビが入り
「私、ふじこくんのことをブロックしようと思うの」
という旨の電話を一本入れてきたあとに、僕の目の前から消え去りました。
最近Twitterで友絵ちゃんのアカウントを調べてみたところ、彼女は結婚していました。彼女が幸せな人生を送れることを心から願っています。
女性に対してあまりにも不誠実すぎてソラニンになれない
ソラニンの作中では種田と芽衣子は6年間付き合っていて同棲しています。
先程のヤバいサブカル女への対応等を鑑みるに、僕はあまりにも不誠実すぎてソラニンの作中のような人生を送れないということを思い知りました。完全に自分の責任なんですけれど。
学生時代後半
ほぼ男で構成されるむさ苦しいメタルサークルでギターを刻み続けていたのですが、サークルにある一人の女の子の新入生が入部してきます。
その後輩ちゃんも浅野いにおの作品が好きだということで、僕は後輩ちゃんを誘って和泉多摩川へ行きボートに乗りました。ソラニン作中に種田と芽衣子が和泉多摩川のボートに乗るシーンがあったので、僕も女の子と一緒にボートに乗ってみたかったからです。
後輩ちゃんとは後々付き合うことになるのですが、僕が就職せずに大学を卒業したあたりから態度がとても冷たくなりフラれてしまうことになります。僕は種田ではないし、後輩ちゃんも芽衣子ではないのですから当然です。就職せずにプラプラしている男は見捨てられて当然なのです。完全に自分の責任です。
社会人時代
後輩ちゃんにフラれる前後あたりで僕は就職することになります。
僕が作中の種田の年齢を追い越してからソラニンを読み返すたびに
「バンド」か「仕事」かじゃなくて働きながらでもバンドやれや
という身も蓋もない感想を抱くようになります。
極めつけには、どうすれば種田が死なずに済んだのかを考え出すようになります。
- 働きながらでもバンドをやる
- 芽衣子を再就職させる
- メンタルが弱っているときには無理をしない
- 交通ルールを守る
あたりはマストだと思っています。
働きながらでも下北沢でライブ活動を続けて、ある程度バンドのお客さん(男性で構成されるバンドのお客さんはだいたい女性)がついてきたら、適当に若くてかわいい女の子を引っかけてモラハラ女の芽衣子をポイ捨てしていけばいいんじゃないでしょうか。良くないですけれど。
死んだら終わり
ここからはネタバレになってしまうので、嫌な方はブラウザバックしていただきたいです。
この記事の冒頭で紹介したソラニン 新装版では、ソラニンから10年ほど経たあとの物語が追加されています。
ソラニンに出てきたキャラクターはそれぞれ社会に適応しており、モラハラ女の芽衣子は適当な男を引っかけて同棲していたりします。
そして作中に登場する種田の痕跡がほぼ0です。ほぼほぼ忘れ去られています。
若気の至りで自暴自棄になってしまったばかりに、その時代に置き去りにされてしまったんですね。なんというか、浅野いにおの意地悪さみたいなものが全面に感じられました。(ぼくはそういうのがめちゃくちゃ好きです)
これからも読み続けたい
色々ソラニンの思い出を書き綴りましたが、これからもなにかの折にソラニンを読み返したいです。これからも読後の感想が変わっていくのでしょうか。
サブカル女に手マンしたときパイパンだったからビックリしたんだ